●その0 田中功起(ロサンゼルス)→読者/2010年7月7日●


このメールのやりとりはかつて書かれ、その後公開されることがなかった。「公開」できなかった理由のいくつかはぼくの落ち度にあったので、どうにも気になった。それをひとつのきっかけとして、ぼくはその後「言葉にする」という対話型のポッドキャストを始める。その一回目のゲストがこの書簡の相手、奥村くん。ポッドキャストのなかではこの書簡の要約も試みている。そしてメール往復書簡という形式は、ART iTでの自主企画「質問する」に生かされる。話すことと書くことを通して、言葉にする。制作をするひとにしか話せない/書けない言葉があり、ぼくはそれを用いてひとまずはこの深い森に分け入ろうとしている。それらがきっと批評や歴史、流行の「言葉」を相対化するだろう。「作り手はただ作ればいい」という声が聞こえてくる。いや、だからこそぼくらは言葉にするのだ。言葉にすることは作ることそのものだと思う。


5年近く前のやりとりを読み直すという行為はすこし恥ずかしい。段ボール箱に入れておいた学生時代の論文を読み返すような気分。気負った表現も多いし。またオリジナルの企画においては語尾をあえて断定口調にするように編集部からの要請があり、それが文体を多少おかしなものにした。今回の掲載にあたって、語尾を直し、それに伴って不明瞭な表現をできるかぎり校正した。その校正はぼくらだけでは足りないと思い、中村麗さんに入ってもらった。ただ、論旨は変わっていない。いや、変えようがない。だからかつてのテキストの流れに、いまのぼくらの校正がすこし入り、それを助走としていま現在のぼくと奥村くんとのやりとりへと継続させようと思っている。2005、2006年のやりとりはこうして時空を越えて現在へと接続する。まずはぼくがまだパリのレジデンスにいた2005年へとタイムスリップしよう。

奥村雄樹+田中功起「いま話すべきこと、考えるべきこと/メール往復書簡」

Subscribe to RSS Feed
 
Blog Summary Widget

書かれたものを集める(Collected Writings / A Book)

p01

編集協力/校正:中村麗